『ブラックボックス:音声分析捜査』ネタバレ考察|事故の真相と伏線

映画『ブラックボックス:音声分析捜査』ネタバレ考察 イメージ画

基本情報

タイトル:ブラックボックス:音声分析捜査(原題:BOÎTE NOIRE)
製作年:2021年(日本公開:2022年1月21日)
上映時間:129分
ジャンル:サスペンス / ミステリー
監督:ヤン・ゴズラン
出演:ピエール・ニネ / ルー・ドゥ・ラージュ / アンドレ・デュソリエ
配給:キノフィルムズ


最新型旅客機アトリアン800がアルプス山中に墜落し、乗客・乗務員316人全員が死亡。フランス航空事故調査局(BEA)の音声分析官マチューは、回収されたブラックボックスの音声から事故の原因を調べることになります。当初はイスラム過激派によるテロと判断されるものの、音声にはいくつもの矛盾があり──という話。

この記事では、墜落事故の本当の原因、ポロックが音声を改ざんした理由、マチューの最期あたりを、作中ではっきり示された事実個人的にモヤっとした部分の考察に分けて整理していきます。

ネタバレ全開なのでこれから見る予定の人はご注意ください。

組織と主要登場人物の関係図

映画『ブラックボックス:音声分析捜査』組織・人物関係図

登場人物は多くありませんが、やたらと組織を跨ぐため簡単な人物の関係図を作りました。マチュー、ノエミ、ルノーはみんな違う会社に所属しており、友達のよしみ?でノエミはルノーに何かと便宜を図ってもらってます。かなり親しくしていたので途中マチューに浮気を疑われますが、最後まで作中に明確な描写はありませんでした。

ノエミは航空宇宙安全機関で働いていましたが、1か月後にアトリアンに転職予定で作中では残った仕事を片付けている状態でした。しかしマチューがアトリアンの極秘データをノエミのパソコンから抜き出したことにより、停職処分を受けます。

事故と音声改ざんの重要な時系列

ストーリーは一本道なのですが、マチューが時刻を確認しながら内容を整理してストーリーを進めていくため、こちらも簡単に時系列をまとめてみました。日時は作中の画面表示や台詞をベースとしています。

📅 2020年10月8日|墜落当日
1:40 EA024便がドバイを離陸
7:48〜7:53 客室乗務員が操縦室へ入り、その後に機体が制御不能に。公式の墜落時刻は7:53
7:56 乗客が夫へ残した留守番電話の表示時刻。公式墜落時刻より3分遅い。
📅 10月10日|ブラックボックス解析開始
19:10 ポロックとバルサンが、回収されたブラックボックスの解析を開始
📅 10月11日|証拠の埋め込みと公表
0:09 バルサンが先に帰る
2:17 ポロックも帰宅する
2:33 思いつめた感じでポロックが車を降りてまた乗り込む
5:12 過去のドーファン型ヘリ事故のデータが更新される
 ポロックと連絡が取れなくなり行方不明となる
19:00 記者会見でテロ説が発表され、ポロックが用意した偽の音声が事故原因として公表される
📅 10月12日以降|マチューが改ざんを疑い始める
遺族から乗客の留守番電話を借り、7:56という時刻と、ブラックボックスに入っていない機長の声にマチューが気づく
📅 10月12〜17日ごろ|ポロック宅への侵入
マチューがポロック宅へ侵入。車のドラレコからSDカードを回収し、ポロックとグザヴィエ・ルノーの接触を知る
📅 10月18日以降|機体不具合説へ傾く
マチューがアトリアン800の不具合を疑い、ノエミのパソコンから極秘の試験データをコピー
📅 10月19日以降|漏洩発覚とシミュレーションの行き詰まり
マチューが試験データをBEAへ提出。情報漏洩がアトリアン側に伝わり、ノエミが停職処分に。
その後MHDのシミュレーションを実施するが不具合は再現されなかった。
📅 数週間後|ハッキング説の浮上
甥のドローンが乗っ取られたのをみてマチューが航空機ハッキング説を思いつく。
乗客の動画から、ケレルがEA024便に乗っていたことを確認。しかし証拠が得られず記者キャロリーヌの信用も失う
📅 異動を命じられた日|隠された座標を発見
事故ファイルが更新されていたことにマチューが気づく。
その後ポロックが残した手がかりに辿り着き、証拠をノエミに送りマチューは死亡。
📅 後日・航空ショー当日|真相の暴露
ノエミがポロックの告白映像を会場で流し、グザヴィエ・ルノーの悪事が暴かれる

ブラックボックスのデータを改ざんしたのはいつなのか不明ですが、時系列として並べてみると10日のポロックだけが解析室に残った時くらいしか隙はなさそうだと思います。その後思いつめた感じで帰宅するため、一人で残ったときにデータ改ざん→罪悪感を感じながら帰宅→帰宅後告発動画を作成、持ち帰ってきた改ざん前のブラックボックスを隠す→失踪という流れが自然かと思います。

じゃあ家にあるあのブラックボックス読み取り装置はなんだよ?ここで改ざんしたんじゃないのか?と感じはしたんですが、物理的に時間がないので、やはり一人になった2時間の間に犯行に及んだのではないでしょうか。ブラックボックスなんてそうそう持ち出せるものではないので自宅になんで読み取り機があるんだよ、という疑問は残りますが、そこは職業柄置いておけた、とみることにします。

ちなみにマチューがポロックとルノーの密会を発見した日付は9月30日です。墜落事故が起こるほんの1週間ほど前ですね。どんどん要求がエスカレートしていったとあるので、関係はこの日以前からあったものと思われます。ポロックがマチューを担当から外したのは「君には見抜かれるから」という理由だったので、改ざんの依頼はブラックボックス依頼前にされ、回収当日にデータが改ざんされたのでしょう。

墜落事故の本当の原因

アトリアン800が墜落した直接の原因は、乗客のデヴィッド・ケレルによる機内通信システム経由のハッキングです。

ケレルは機内の通信システムから航空機の制御システムへ侵入し、「外部から機体を操作できる」ことを実証しようとしました。ところがケレル側の操作とパイロットの操作が競合してしまい、機体を正常な状態へ戻せなくなってしまい墜落。

当初発表されたようなイスラム過激派によるテロではなく、マチューが途中で疑ったMDI(操縦支援システム)単体の故障でもありませんでした。実際はハッキングによりどちらの操作も受け付けなくなり、MDIが動作するものの正常に機能せず墜落しました。

独り言
正直、真相が「ハッキングでした」だったのは少し拍子抜けでしたね。中盤あれだけMDIの誤作動をにおわせて、実在するボーイング737MAXの事故を思い出させる作りだったので、てっきり「新型旅客機の設計不備×企業の隠蔽」で押し切る話かと思ってました。それがラスト付近で急にサイバー攻撃に切り替わり、ハッキングの目的も明かさないまま終わっていったのでテーマがちょっと散った感はありました。あとハッキングって音と関係ないから…そこに着地するとは思ってなくて…。

ボーイング737 MAXとの関連は?

上記の独り言でも触れましたが、本作の事故は「ボーイング737 MAX」という、実在する飛行機の問題を強く連想させます。自動制御システムが機首を下げ、操縦士が制御を取り戻せない点に加え、新型機の認証や企業利益を優先する体質も共通しています。

ただし本作ではハッキングが事故の引き金となっており、実際の737 MAX事故をそのまま再現した作品ではありません。監督によると、737 MAXが世界的に運航停止となった時点ですでに脚本は完成していたため、現実の事故が偶然にも作品のテーマと重なった形のようです。

◆ 737 MAX事故について ◆
2018年のライオン・エア610便、2019年のエチオピア航空302便の墜落で計346人が死亡。原因は失速防止のための自動制御システムMCASが誤作動で機首を強制的に下げ続け、操縦士が制御を取り戻せなかったこと。この事故を受けて737 MAXは世界的に運航停止となり、FAA(米連邦航空局)による認証プロセスの甘さ・ボーイングとの癒着も大きな問題として追及されました。

決定的に違う部分は、本作の事故原因が「機体そのものの設計不備」ではなく「乗客によるハッキング」だった点ですね。737 MAXが「メーカー内部の判断ミスと当局の追認」で起きた事故なのに対し、本作は「メーカー由来の脆弱性を外部の第三者が突いた」構図。責任の所在の描かれ方が根本的に違います。

現実の事故のように「メーカーと当局の癒着」を真正面から告発する物語かと思わせておいて、ラストでは「システムの穴を突く個人(ケレル)× 会社を守る個人(ルノー)× 買収された個人(ポロック)」という個人単位の陰謀劇に着地させたのが、この映画が現実の事件と大きく違うところですね。

737 MAX事故について詳しく知りたい方へ

本作の公式なモデルとは明言されていませんが、機体の安全性より納期や利益が優先され、メーカーと認証制度の問題が事故につながる構造には、737 MAX事故との共通点が見られます。実際の事故とボーイング社内で起きていたことは、『迷走するボーイング』で詳しく扱われていますので気になった方はどうぞ~。

ケレルはなぜ飛行機をハッキングしたのか

ケレルの目的は乗客を殺すことではありません。ハッキングで機体が制御を失った際に明らかに動揺しているためです。彼は航空機向けシステムを開発しているペガサス・セキュリティの元社員でした。通信システムに重大な脆弱性があると気づいて問題提起したが取り合ってもらえず、退職したのではないかと個人的には思います。そしてその後、ペガサス・セキュリティのシステムには問題があることを提起するため、実際に飛行中の機体を操作することでその危険性を証明しようとしたんじゃないでしょうか。

ケレルは過去にも航空機へのハッキングで逮捕された経歴があります。解雇と最初のハッキング事件のどちらが先だったのかは、作中では明らかにされていませんが…。私は最初のハッキング→ペガサス入社・退社→2回目のハッキングだったんじゃないかなと考察しております。ハッキングで問題提起→自分が作る側にまわって問題を直す方向を検討→しかし現実は甘くなくもみ消された→やはりハッキングで問題提起するしかない、という考えだったんじゃないかと思っています。

とはいえ、脆弱性を周知させるためとはいえ旅客機には大勢の乗客が乗っています。墜落させる意思がなかったとしても、実際の飛行中にハッキングした時点で相当危険で無責任な行為を行ったことに変わりはなく、この作品でも「正義の内部告発者」としては描かれていません。企業が欠陥を隠そうとしたことと、ケレルが乗客の命を危険にさらしたことはそれぞれ別々に責任があります。

ポロックはなぜ「回りくどい方法」で証拠を残したのか

ポロック、最後は良心の呵責に耐えかねてマチューへ真相を託すわけですが、**やり方が異様に回りくどいですよね。**告白映像を録画→ヘリ事故の音声ファイルにGPS座標をこっそり埋め込み→本物のブラックボックスは自宅近くの池に沈める、という流れ。どこかの報道機関へ直接データを送ればよかったのでは?と思わずにはいられません。

これは作中で明確な説明はないので推測になりますが、こんな回りくどい方法をとった理由として以下のような事情が考えられます。

  • データ隠蔽をしたのち、最初はまた勤務に戻る予定でいた。
  • しかしデータ改ざん後に殺されるかもしれないという恐怖があった
  • そのため自分がいなくなった場合、せめてもの罪滅ぼしにと本物のブラックボックスを保険として隠した
  • 通常の通信経路や外部送信は監視されていた可能性があるため、「音」を経由した伝達方法を考える
  • そして音に敏感であり細部の問題も見逃さないマチューであれば、真実にたどり着くだろうと確信していた
独り言
とはいえ「マチューが偶然そのヘリ事故ファイルを再確認しなければ座標が発掘されない」って、証拠の残し方としては相当危ういですよね。実際マチューが気づいたのも会社を立ち去る寸前でした。映画としては「音でしか気づけない仕掛け」でマチューに物語を進めてもらいたかったということなんでしょうが…。ポロックの迷いや恐怖、なんだかんだでマチューの実力を一番認めていた表現としては嫌いじゃないですけどね!

3分の時間差が意味すること

マチューが改ざんを疑うきっかけになったのが、事故機の乗客女性が夫へ残した留守番電話。留守番電話の表示は「10月8日7時56分」。一方、公式の墜落時刻は同日7時53分。公式時刻でいくと墜落後に留守電をいれたことになり、矛盾が生じるわけですね。

マチューはこの違和感に気づいたものの、まさか音声改ざんが行われているとは夢にも思っていませんでした。レニエ局長も「墜落時刻の推定がずれることもある」と説明してます。しかしマチューが本当にここで重要視したのは、留守番電話には機長のアナウンスや「緊急降下」と聞こえる声が入っているのに対し、調査用のブラックボックスには同じ声が入っていないことでした。3分のずれより、彼にはこの内容の食い違いのほうが決定的でした。

3分のずれは「動かぬ証拠」ではなく、あくまでマチューが再検証を始めるきっかけの一つであり、改ざんの可能性を暗に示すヒントだったというわけです。

ブラックボックス改ざんは本当に可能なのか

作中の描写では、ブラックボックスの開封は関係者立ち会いのもとで行うのが基本のはずで、そこにポロック個人が単独で偽音声を混ぜ込めた、というのはやや強引な展開に感じます。何故ならバルサンが先に帰宅しなければこの犯行は破綻してしまうからです。まあそこは上司であるポロックが「お前はもう帰れ」とかなんとかいって帰す予定だったのかもしれませんが…。

ちなみに現実のBEAの手順ではブラックボックス開封は録画され、透明性を確認しながら進められる(後述)ため、この作品の改ざん描写はサスペンス寄りの脚色と考えたほうがよいです。

ポロックは死亡したのか

ポロックが最終的にどうなったのかは、作中では明らかにされていません。マチューが見た告白映像は事前に録画されたもので、撮影後のポロックの行動は不明。遺体が発見された場面も、死亡を告げる台詞もありません。ルノー側に殺された可能性はあるし、証拠を残して逃亡した可能性も否定できない。

ただマチューが見る白昼夢で、ポロックが殺されている描写があるため、やはり殺された説が高いんじゃないでしょうか。ポロックの家に証拠を探す男たちが現れているので、少なくともルノー側から追われていたことは確かです。

作中ポロックの家に侵入した後のマチューに声をかけてきたご老人が「昨日もあんたの職場の人が見に来ていたよ」という場面がありますが、おそらく来ていたのは同僚ではなく同僚と偽って様子を見に来ていたルノー側の人間だったんじゃないでしょうかね。

マチューの最後の事故は車のハッキングだったのか

本物の音声とポロックの告白映像をノエミへ送ったマチューは、侵入してきた男たちから車で逃げます。しかし走行中に車の電子システムが異常を起こし、ハンドルの制御がきかなくなり木へ衝突して死亡。この場面は単なる運転ミスではなく、車のシステムが遠隔操作されたことを示す演出です。飛行機のハッキングから始まった物語が、同じく電子制御された車でマチューの命が奪われる形で終わります。

正確に死んだという描写はありませんが、その後登場してこず次の場面ではノエミが泣いているところから始まるため、やはり亡くなってしまったとみるのが自然じゃないでしょうか。

ただあれだけ距離が離れた状態で車をハッキングできるものなのか?という疑問だけ残りますよね。ライトを消して後ろからついてきていた説も考えましたが、耳がいいマチューなら車の音で気づきそう。あとハンドブレーキを引けば車止まったのでは?と思わなくもない(捕まったら終わりなので逃げ切るほうに運をかけたのかもしれませんが…)。

そして飛行機の脆弱性をハッキングで暴くところから始まった話が、最後は「ハッカーではなさそうな男たちが車をハッキングして事故を起こす」で締まるので、真相の柱だった「ハッキング」という要素がえらく安く見えてしまう演出をしてしまったのは非常にもったいなかったなと思います。

独り言
事故後マチューの耳の部分がドアップになったのはなんだったの??と個人的にずっと疑問に思っています(笑)てっきり気を失ったものの、驚異的な聴覚で迫ってくる車の音でなんとか目を覚まして逃げ切る…と思ってたんですが…。そんな描写はなく…。なんだったんだあれ…。

ノエミがルノーを疑った「ヘッドセット」の意味

終盤、ルノーはノエミとの会話の中で、墜落機の録音について「音が悪いんだ。ヘッドセットを外したせいで」と話します。わかりにくいですが、ここでいうヘッドセットを外した人物はマチューのことではなく、墜落したEA024便の機長と副操縦士です。

操縦士がヘッドセットを装着していれば、口元のマイクを通して声が明瞭に記録されます。しかし、ヘッドセットを外している間の会話は、操縦室内の集音マイクで拾うことになるため、周囲の音に埋もれて声が聞き取りにくくなっていました。

この事実は序盤のブラックボックス分析でもマチューが気づいています。しかしその事実を調査に直接関わっていないルノーが知っているのは不自然でした。

ノエミに「どこで聞いたの、ヘッドセットの話」と尋ねられたルノーは「報告を読んだ」と返答。それにノエミは「まだ公開前では?」と追撃をかけ、それに「アトリアンから入手した」とルノーが説明します。しかし、ルノーが経営するのはペガサス・セキュリティです。未公表の調査情報を知っていること自体が、BEA内部の誰かと情報をやり取りしていた可能性を示していました。

この発言だけでルノーの関与が証明されたわけではありませんが、マチューの訴えを疑っていたノエミにとっては、ルノーが何らかの事実に関わっている事を疑うきっかけになりました。ここはルノーが本来知らないはずの情報を漏らしてしまった場面です。何気ない一言から、ノエミはマチューの疑いが正しかった可能性に気づき始めたのです。

ノエミとレニエ局長は隠蔽に関わっていたのか

ノエミは航空機の認証に関わる仕事をしていたため、認証に関わる隠蔽はしていましたが、ルノーやポロックによるブラックボックスの隠蔽を知っていたわけではありません。

レニエ局長も、マチューの調査を止める側だったので黒幕候補に見えやすい人物。ですがレニエがルノーと共謀していたことを示す場面はありません。証拠のない推測で組織を動かすことを避け、独断で走るマチューを危険視していた、という描かれ方で、事故を隠蔽していた人物とは描かれていません。どちらかというと、レニエ局長はマチュー側の味方をしています。証拠さえあればきちんと調査もしてくれていたからです。

また、最後にマチューが取り寄せていた乗客名簿も無下にはせず、なぜ取り寄せたのかなどきちんと確認を取りはじめます。「細部が気になるから原本を確認したい」という理由を聞き、バルサンに回さず自分で名簿を確認しはじめます。マチューが何かに気づいた可能性を捨てていないのです。

ちなみにマチューが名簿を取り寄せたのは、確認できる乗客名簿の名前にケレルの名前がなかったからです。きっとデータを改ざんして名前を変えたに違いないと踏んで、データ改ざんできない「原本」を取り寄せ、名前が書き換わっていないかと確認するつもりだったんですね。

最後に事実が暴露された後の記者会見でレニエ局長は、「本物だと証明されれば我々の仮説が裏付けされます」と言っています。なので最後レニエ局長はマチューが取り寄せた原本を見て、ノエミが改ざんを公表する前に、ハッキングの可能性に気づいたんじゃないでしょうかね。

実話なのか・音声分析の仕事は実在するのか

『ブラックボックス:音声分析捜査』は特定の航空事故を映画化した作品ではなく、物語そのものはフィクションです。

一方、マチューが勤務するフランス航空事故調査局(BEA)は実在します。航空機には飛行データを記録するフライトデータレコーダー(FDR)と、操縦室の会話や周囲の音を記録するコックピットボイスレコーダー(CVR)が搭載されており、BEAにはCVRの音声を解析する担当者も存在。制作陣はBEAを取材し、ブラックボックスの開封や音声分析の手順、施設内部をかなり忠実に再現しているそうです。前半の調査場面にドキュメンタリー的な現実味があるのはこのため。

ただし、すべてが現実どおりというわけではありません。ヤン・ゴズラン監督自身も、ブラックボックスの音声をBEAの外へ持ち出して聞くことは現実には起こり得ないと語っています。また、実際のブラックボックス開封は関係者の立ち会いのもとで録画され、透明性を確認しながら進められる手順です。

音声分析の仕事や基本的な調査手順は実在するが、大規模な改ざんや航空機・自動車のハッキングを含む陰謀部分は、サスペンス映画としての脚色となります

感想|真実は明らかになったが、すべてが報われたわけではない

事故の真相自体は、ポロックが残した証拠によって明らかになります。ルノーも逮捕され、316人の死がテロリスト一人の責任として処理される事態は避けられました。ただし真相へたどり着いたマチューは死亡し、傷つけてしまったノエミとの関係を修復する時間も残されなかった。事件は解決しても、主人公個人にとっては救いの少ない結末ではありますよね。

マチューは正しかった一方で、調査のために不法侵入や情報の持ち出しを行い、妻の仕事まで失わせています。真実を追う姿勢がすべて正義として肯定されているわけではないところは、本作の面白い部分でした。もう少し早くデータの更新に気づいていれば、不法侵入もノエミの失職も避けられたかもしれない──と思うと、やるせないですけどね!

独り言
「周りが言われた仕事だけをやっていればいい」的な組織の空気感は、同じ音声だけを頼りに真実にたどり着く映画「THE GUILTY/ギルティ」となんとなく通じるものがありますよね。あっちは本当に音声だけ、こっちは音声以外にわりと主人公がアクティブに動いている違いはありますが(笑)
あと、音だけを頼りに真相を解明する話かと思って見始めたら、後半は不法侵入したり妻のPCから資料を持ち出したりと、割と物理で殴っていく展開になっていったのは予想外でしたね!

冒頭から積み重ねた「音を聞く」という要素が最後まで真相解明の鍵になり、最終的にノエミがマチューの遺志を継ぐ構成できれいにまとまっていた点はよかったと思います。ツッコミどころはありつつも、飛行機事故サスペンスとしては十分見応えのある一本でした。

ちなみに私はU-NEXTで視聴しました。Amazon Prime Videoでも配信されているので、見たい方は加入しているサブスクで見られる方を選べばOKです。

参考資料


© Kinology / Wild Bunch
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